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(N本経済新聞二○○六年四月二十五日付)しかも、日本政府はさらに、外国企業による日本企業の「三角合併」を容易にする算段をしているのだから呆れる。
どうやら日本政府は、日本企業をなるたけ安く外資に買い叩いてもらいたいらしいのだ。
N放送買収問題が起こったさい、経済誌も経済新聞も競って「敵対的買収への防衛策」を特集したものだが、そこで登場してきたポイズンピル、クラウンジュエリー、ホワイトナイト、ゴールデンパラシュート、黄金株などが、本当にそのまま通用すると思っているのなら、あまりにもナイーブというべきだろう。
アメリカでは、八○年代からの膨大な数の試みの挙句に、結局はポイズンピル(毒薬)あるいはライップランと呼ばれている対抗策だけが生き残り、さらに、これもあまり有効でないと分かつて解除してしまう企業も多くなってしまった。
これを「毒」を解除するという意味で「解毒」などということもある。
また、アパレル企業のWなどが、経営陣自ら自社株をすべて買い上げてしまうMBOを断行して上場をやめてしまったので、これは外資系企業による買収への対抗策だといわれているが、必ずしもそうではない。
自社の内部留保やキャッシュフローだけで、自社株をすべて買い上げることのできる企業などほとんど存在しない。
MBOが行われた場合、たいがいは投資ファンドあるいは投資銀行がその企業の株式を大量に保有し、再上場のさいの膨大なキャピタル・ゲイン(株式売却による利益)をめざして、苛酷な企業体質の改善に取り組ませている。
専門家のなかには、投資ファンドや投資銀行によるMBO推奨には、注意したほうがよいと警告する者もいるほどだ。
来るべきM&A時代に備えると称して、経済産業省と法務省は「買収防衛策に関する指針(ガイドラインを提示し、経済産業省の企業価値研究会が「企業価値報告書」を発表したが、あまりにアメリカ本位の考え方が貫かれていて関係者を驚かせた。
それもそのはず、日本政府は先進諸国の制度をろくろく比較考量することもなく、ともかくK・B合意に基づく「日米経済パートナーシップ」を順守すべく、アメリカ型M&A制度を導入することに邁進してきたからである。
敵対的買収の防衛策すら骨抜きになってしまったアメリカと歩調をあわせれば、買収側が有利な制度になるのは当然だろう。
これまで日本においてM&Aがなかったのかといえば、もちろん、そうではない。
戦後を振り返っただけでも、ユニークな「乗っ取り屋」が暗躍する時代もあれば、巨大な企業合併が次々と行なわれた時代もあった。
たとえば、戦後、乗っ取り屋として名を馳せた人物にYがいる。
Yは多くの会社乗っ取りを企てたが、その目的のほとんどは高価格での株式買い戻しを狙った金儲けだった。
ところが、ホテルNの乗っ取りで、彼自身がホテルを経営する夢に取り付かれたせいで、このホテルを自分のものにしてしまう。
しかも、乗っ取り後に十分な追加投資を行わず、同ホテルが火災事故に見舞われ、スプリンクラーの不備で多くの死者を出したときには、賠償金を出し渋って「守銭奴体質が出た」と冷笑されたものだった。
しかし、こうした巨大合併は産業構造の効率化を狙ったもので、乗っ取り屋の金銭的欲望や経営者の野望、あるいは一企業の戦略から生れてきたものではなかった。
初めてアメリカ型のM&Aを日本で自覚的に行なったのは、八○年代のM社長・TによるS精機買収だった。
ボールベアリング・メーカーだったMは、M&Aによって多くの同業他社を吸収合併していたが、優良企業であるS精機への買収提示は業界を驚かした。
このTOBは、突如、外資系企業が逆にMネベア買収に乗り出したため挫折し、その直後に高橋が急逝してしまい、評価は定まっていない。
いま日本では、M&Aは企業の効率を高めるという説が声高に唱えられているが、買収した側の企業は買収された側の人員を削減することが多く、たとえ残ったとしても出世や待遇において不利になるのが普通だ。
しかも、事業が重複していることも多いから、必ずしも効率的な経営に結びつくとは限らない。
それは、すでにアメリカの例で見た通りである。
一方、二○○五年十一月十九日に他界した元N本興業銀行頭取のNは、六六年のN産自動車とP自動車の合併や、戦後最大といわれた七○年のY製鉄とF製鉄の合併を主導した。
バブルが崩壊した九○年ころから日本では、急にコーポレート・ガバナンス(企業統治)という言葉が流行り始めた。
日本のように社員中心のコーポレート・ガバナンスではダメで、アメリ力のように株主を中心としたコーポレート・ガバナンスに切り替えるべきだという説が、まことしやかに唱えられるようになったのである。
この仕組みを流布しているイメージでいえば、次のようになる。
まず、企業は業績を上げて株価を上昇させることで株主に応える。
企業の業績は世界でも最も明快とされるアメリカ会計基準で会計事務所がしっかりと検査する。
また、株主は十分に株価が上がらない場合には株式を売却するか、あるいは株主総会を通じて企業の経営陣に圧力をかけることができる。
さらに、企業運営は経営陣と取締役会とに厳密に分離され、取締役会には多くの社外取締役を入れることで、客観的な判断を反映させることができる。
加えて、取締役会が選んだ経営陣はストック・オプションで業績アップのインセンティブを与えられるだけでなく、現場で働く社員に対しても確定拠出型年金(401k)を自社株に投資させて業績に対するインセンティブを高める。
つまりは、株価という共通の判断基準で株主―経営陣―社員の満足を最大にすれば、株主は満足し、経営は改善され、社員はハッピーに働くというわけなのである。
しかも、こうした効率のよい経営を行わない企業は、株主の支持を失い株価が下落してM&Aで買収されやすくなるから、経営陣は買収されないためにも経営の効率化に努めるという論理が、この株高経営論の「かなめ」となっている。
しかし、二○○一年から翌年にかけて、EやWの破綻が明らかになると、こうしたコーポレート・ガバナンスは、実は害の多いものであることが露呈した。
まず、企業は株価を上げるため業績を上げてきたが、それは会計事務所を巻き込んでの粉飾決算によるものが多かった。
当然のことだが、完璧な会計基準とされてきたアメリカ会計基準にも多くの抜け道があり、それは他の会計基準と同じようなものだった。
また、極度に分散してしまった株主たちが株主総会に出ることなどほとんどなく、直接の投票を行なおうとすれば準備に膨大な費用が必要だった。
さらに最高経営責任者が取締役会会長を併任している企業が上場企業の約八割を占めており、社外取締役のほとんどは最高経営責任者の友人たちで、他企業の最高経営責任者や社外取締役との掛け持ちがほとんどだった。
加えて、経営陣が得られるストック・オプションは過剰なインセンティブを生み出し、最高経営責任者が自分で決める報酬はストック・オプションを含めると平社員の数百倍にまで膨れ上がっていた。
確定拠出型年金のほとんどを自社株で運用していた社員のなかには、バブル崩壊でその大部分を失った人たちが続出した。
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